2022年 私の10冊 その1

 今年は、ガードルストーンの『モーツァルトのピアノ協奏曲』日本語訳の発表の場としてGS氏と開設したブログのコンテンツ充実のため書く方に集中しまして、読む方はややおろそかになりました。とは言え、入手する本の数はそう変わりませんから、積読が増えたということです。

したがって、10冊を挙げるのは難しく、6冊になりました。この中には新たに手に入れた本に加え、読み返した本もあります。

① Amos Tutuola  The Palm-Wine Drinkard

Amos Tutuola  The Palm-Wine Drinkard

 この本は『やし酒飲み』というタイトルで翻訳があり、岩波文庫でも出ています。前から気になっていたのですが、本屋でたまたま目に入ったので、手に入れました。本屋をぶらつくといろいろ面白い発見があります。読む前は、アフリカに生きる悲哀を訥々と語るものかと思っていましたが、大違い。10歳のころからやし酒を飲んでいる男が、頓死してしまったやし酒造りの復活を求めて旅に出て、魔物や邪悪な精霊たちと戦いを繰り広げる法外な話です。まさに冒険譚で、プロットも何もありません。物語としては破綻が大きすぎる。文脈もいい加減で、混乱します。やし酒造りを探す目的に向かってひたすら突き進む始まりがあって終わりがある話ではなく、あちこち脱線し、ぐるぐる回り、出発点も到達点もない。邪悪な精霊と書きましたが、実は善も悪もないのです。何しろ、そもそも主人公の動機が旨いやし酒を飲みたいですから、いわゆる教訓などどこを探してもない。アフリカの想像力の物語とどこかに書いてありましたが、まさにその通りで、既成の文学の枠組みでは得られない刺激がありました。後ろに著者が自ら記した略歴がありますが、これを読んでから物語を読むと、この冒険譚が著者の人生の道筋を辿ったものであることもわかります。

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