2022年 私の10冊 その2

E.H. Carr  The Twenty Years’ Crisis 1919-1939

E.H. CarThe Twenty Years’ Crisis 1919-1939

何をいまさらと言われるような本ですが、実は、かなり前、この本を買ったその日に飲み過ぎてどこかに忘れてきてしまい、本屋で見かける度にその記憶がよみがえり、手に取りませんでした。今年、米国の外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』100周年記念号に過去現在の歴史を理解するための必読書として挙げられていたのをきっかけに、性懲りもなく買いました。著者のE.H.Carrで最も良く知られているのは『歴史とは何か』でしょうが、「歴史とは」のタイトルにあるように、歴史解釈を巡る抽象論に終始していますから、頭に入りにくく、今でもわかったとは言えません。一方で、この本はきわめて具体的にかつ大きなくくりで第一次大戦終結から第二次大戦勃発までの期間の国際関係を論じていて、岩波文庫の紹介文を借りれば、「政治に対する倫理の優位を信じ望ましい政治秩序を構想する,変革の思想としてのユートピアニズム.現実を分析し,そのユートピアニズムの偽善を暴くリアリズム、大戦間期二十年の国際政治に展開した理想主義と現実主義の相克と確執に分析のメスを入れ,時代と学問の力動的関係を活写する」もので、まさにその通りなので、付け加えることもありませんが、ユートピアニズムとリアリズムの相克を描きながら、どちらも否定せず、さらには権力と道義の問題を論じ、これらについても現実的な立場から是非を論じてはいないが、最終的には道義が新たな道を切り開くための礎になると断言し、その通りであると納得させられます。この本が1939年に出版されて、80有余年経ちますが、ほぼ欧州に限定されていた国際政治が今や全世界を巻き込むことになり、事態はかなり複雑化しています。しかし、この本でE.H.Carrが述べていることは時代と地域を超えています。外交や政治に直接かかわる人々以外(つまり、われわれ)にも読まれるべき本だと思います。

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