2023年 私の10冊 その2

② Roger Angell The Summer Game

 入社して間もない頃だが、本社ビルの最上階にあった図書室によく行った。目的はThe New Yorkerを読むためである。さらに言えば、ホイットニー・バリエットのジャズ評論そしてロジャー・エンジェル(アンヘルと呼ぶのかと思っていた)の野球に関するコラムを読むためだった。バリエットの文章はニューヨーカーに相応しく難しいものだったが、エンジェルの野球評は読みやすかった。図書室で熱心に読んだ雑誌としてはスポーツイラストレイテッドもある。スポーツ関係では、ボクシング専門誌The Ringも読んだが、さすがにこれは図書室にないので、そのころ銀座にあった丸善で購入した。ペラペラのちょっと怪しい雰囲気の雑誌で、電車の中で読むのは気が引けた。本屋と言えば銀座には旭屋もあったが、これももうない。旭屋では、SFマガジンがSMマガジンの隣に置いてあり、これではSFマガジンの購入者が変態に見えてしまうではないか、なんたる見識のなさと当時は腹が立ったが、SMの他に「さぶ」なども置いてあったので、マイノリティの読者に対する配慮が行き届いていたことに感心すべきかもしれない。

Roger Angell The Summer Game

 さて、この本の著者ロジャー・エンジェルは厳密に言うとスポーツライターではなく、老舗雑誌ニューヨーカーのフィクション担当チーフエディターである。しかし、彼が、スポーツ、特に野球について書いたエッセーは長年米国人に愛され続けた。
 この本に収録されているのは1962年から1971年までに書かれたもので、この間米国の野球、いわゆるMLBは、フランチャイズの移動(ドジャース、ジャイアンツなど)、新しい球団の創設(メッツ、アストロズなど)、ドーム球場の建設など様々な出来事を経験し、エンジェルはその変化を時にフレンドリーに(特に選手に対して)、時に厳しくシニカルに(特に球団経営者に対して)記録している。

 ロジャー・エンジェルは個々の試合(特にワールドシリーズ)や選手(サンディー・コーファックス、ウィリー・メイズなど)に加えて、監督、球場、観客、球団経営などスポーツとしてメジャーリーグが成り立つすべての要素をカバーしており、この本を読むとメジャーリーグベースボールには良くも悪しくも米国のすべてが詰まっていることが実感できる。特に新興球団、メッツの悪戦苦闘(発足1年目40勝120敗)と奇跡的なワールドシリーズ優勝の記録は感動的で、まさにアメリカンドリームだった。

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