歌詞を味わうジャズスタンダード曲 その2

Chris Connor : Sings Lullabys of Birdland

 Something Coolを聴くと思い浮かぶのはTry a Little Tendernessという曲だ。この曲はソウルシンガーのオーティス・レディングの歌で注目されたが、最初は、1932年にレイ・ノーブル楽団によって録音され、ビング・クロスビーが1933年に、フランク・シナトラが1946年にデビューアルバムのために録音したこともある比較的古い曲だ。いろいろ聴いてみたが、クリス・コナー(Chris Connor)Sings Lullabys of Birdlandに収められたエリス・ラーキンストリオをバックに唄ったものが最も良い。ジューン・クリスティ、クリス・コナー、それにアニタ・オディは共にスタン・ケントン楽団のメンバーで、ケントンガールズとして有名だ。しかし、クリス・コナーの名唱が思い浮かぶのはそのためではない。歌詞がその理由だ。彼女につれない彼氏へのアドバイスの歌かと思ったが、これは男性すべてに向けられたメッセージソングなのだ。「彼女」は自分の母親でもいいわけで、クリス・コナーの歌はそのように聴いている。
 Something Coolとの関連で、この歌が連想されるのは、Like my dress, well, I must confess it’s very oldに対してWomen do get weary wearing the same shabby dressという歌詞があるからだが、疲れて所在無げな女性に下心なく冷たいドリンクを一杯奢ると言うのも小さなやさしさの一つだろう。

Chris Connor Try a Little Tenderness

In the hustle of day
We’re all inclined to miss
Those little things that
Means so much
A word, a smile, a kiss

When a woman loves a man
He’s hero in her eyes
And a hero can always be
If he can realize

Try a little tenderness
She may be weary
Women do get weary
Wearing the same shabby dress
And when she’s weary
Try a little tenderness

Oh, she may be waiting
Just anticipatin
Things she may never possess
While she’s without them
Try a little tenderness

It is not sentimental
She has her grief and her care
But the word so soft and gentle
Make it easier to bear

You won’t regret it
Women don’t forget it
Love is their whole happiness
And it’s all so easy
Try a little tenderness

(Campbell/Connelly/Woods)

 しかし、これだけ言われても、女性の気持ちに鈍感だと、If She Walked in My Lifeに唄われているように後悔することになる。この曲は、ブロードウェイの大ヒットミュージカル、Hello Dollyの楽曲を担当したジェリー・ハーマン(Jerry Herman)が別のミュージカル作品のために書いたもので、1967年にイーディ・ゴーメ(Eydie Gorme)が歌ってグラミー賞のベストボーカルアワードを獲得している。
 もともとは女性が歌うものらしいが、男性ボーカルがぴったりくる歌詞だと思う。

Did she need a stronger hand
Did she need a lighter touch
Was I soft, or was tough
Did I give enough, did I give too much

At the moment she needed me
Did I ever turn away?
Would I be there when she called
If she walked in my life today?

Did she mind the lonely night?
Did she count the empty days?
Was I silent, was I cold?
Was I quick to scold, was I slow to praise?

And there must have been a million things
That my heart forgot to say
Would I think of one or two
If she walked in my life today?

Would I blame the times I pampered her
Or blame the times I bust her?
What a shame, I never really found the girl
Before I lost her

Were the years a little fast?
Was her world a little free?
Was there too much of a crowd
All too lush and not enough of me?

Though I ask all my life through
What went wrong the way
Would I make the same mistakes
If she walked in my life today?

(Jerry Herman)

 この男の問題は甘やかしすぎたとか、厳しすぎたとかいうことではなく、I never really found the girl before I lost herと自分でも言っているように、常に一方的で、相手を理解する気持ちがなかったことだ。おそらく、今でも彼女のことはよくわかっていないし、あれをやればよかったとか、やらなければよかったと些細なことに拘っているので、彼女がまた目の前に現れたとしても、残念だが、同じ失敗を繰り返すだろうな。ほんの少しの優しさがあればよかったのだ。しかし、Did I give enough, did I give too much?(与えすぎたのだろうか、与えなさすぎたのか)、Was I quick to scold, was I slow to praise?(すぐ叱りすぎたのか、ほめる時にほめなかったのか)とかの言葉は、まるでペットのしつけ方のようだ。この歌は、恋人に去られたとも、子どもが出て行ってしまったとも、さらにはペットに逃げられたとも読めるのが面白いところだ。

Matt Monro : Invitation to Broadway

 さて、この歌のボーカルだが、ビリー・エクスタイン(Billy Eckstine)のものがある。彼のバリトンボイスはこの曲に限っては大仰すぎて、バックもコーニーだ。やはり、あらためてこの曲の良さを感じさせてくれたマット・モンロー(Matt Monro)のバージョンがいい。淡々として、中年男の回想にぴったりの声で、歌詞が生きるフレージングだ。バックのオケもビートルズの名プロデューサー、ジョージ・マーチンの腕が十分に発揮されている。

 これらの3曲は案外カヴァーが少なく、とりわけインストルメンタルで取り上げられることがないようだ。じっくりと歌い上げる曲なので、at any tempoというわけにはいかず、演奏の面白みがないのだろう。

Matt Monro If She Walked in My Life

 一方で、How High the Moonのような曲もあり、この曲のカヴァーは数えきれず、数多くのインストルメンタル(チャーリー・パーカーのOrnithologyなど)および歌唱の名演を生み出しているが(最初はスローバラードとして演奏されたらしい)、その歌詞はリズム&メロディーのためにあり、翻訳の必要がないようなものだ。この曲でヒットを生み出したギタリストのレス・ポール(Les Paul)は、レコード会社にこの曲の歌詞は最もくだらないと言われ、録音に難色を示されたそうだ。歌詞の中でも、though the words may be wrong, we’re singing it(詞はおかしいかもしれないが、歌うのさ)とある。

Somewhere there’s music
How faint the tune
Somewhere there’s heaven
How high the moon
There is no love
When love is far away too
Till it comes true
That you love me as I love you

Somewhere there’s heaven
It’s where you are
Somewhere there’s music
How near, how far
The darkest night would shine
If you would come to me soon
Until you will, how still my heart
How high the moon

How high the moon
Is the name of this song
How high the moon
Though the words may be wrong
We’re singing it
Because you ask for it
So we’re swinging it just for you

Hamilton/Lewis

 エラ・フィッツジェラルドの名唱(Ela in Berlin)がこの曲の典型的な歌い方で、最初ミディアムテンポで歌詞をしっかり歌い、テンポを変えてスイングし、途中でさらにアップテンポでスキャットする。この曲のコード進行に基づいたチャーリー・パーカーの名曲Ornithologyのフレーズを取り入れてスキャットするのが実に面白い。ジューン・クリスティもケントン時代の録音があり、冒頭からスキャットを入れてスイングしている。しかし、歌詞にまったく意味がないわけでなく、大切な言葉(heaven、moon)は韻を踏んで心に残るようになっている。

Ella in Berlin How High the Moon

 どのような曲でも、歌詞があれば、その歌詞を頭に入れて聴くとさらに楽しめるだろう。特に英語は一回聴いただけでは頭に入りませんから、事前に仕入れておくのが一番。昔は、耳で覚えるだけだったので、ずいぶん出鱈目な言葉で歌っていたな。「あいうおなほーるどゆあーはんど」くらいならまだいいが、「でーお、いてていてて」とか、「あんみつたりない」とか意味不明なものもあった。それでも面白かったのは、そういう時代だったからかな。

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