ジャズスタンダード その1

 米国のサイト、JazzStandard.Com.によれば、ジャズのスタンダードナンバーのトップ10は以下の通りとなる。スタンダードとは何であるかだが、発表されてから長らく演奏され、耳を傾けられている曲だというしかない。ランキングは、それぞれの曲がCDにどれだけ収録されたかを基準で決めているとのことだ。

  1. Body and Soul (‘39)
  2. All the Things You Are (‘35)
  3. Summertime (‘35)
  4. ‘Round Midnight (‘44)
  5. I Can’t Get Started (‘35)
  6. My Funny Valentine (‘37)
  7. Lover Man(Oh, Where Can You Be) (‘42) 
  8. What Is the Thing Called Love (‘30)
  9. Yesterdays (‘33)
  10. Stella by Starlight (‘46)

 カッコ内の数字はその曲が発表された年で、1930年代の曲が7曲を占め、その他は40年代で、いずれしても今から80年前以上に世の中に出た曲ばかりだ。新しい曲がないと嘆くより、これだけ長い間愛でられている曲がこんなに数多くあるのかと驚くべきだ。
 では、なぜ、長い間好まれているかというと、聴く側の理由は千差万別なので、演奏する側から見ると、

Prelude to a Kiss(46位)
The melody has a lot of chromatic movement, and there are enough key centers and resolutions to keep things interesting when soloing.

Yesterdays (9位)
The melody is strong and easily played or sung and the tune works at any tempo.

Body and Soul (1位)
The unusual changes in key and tempo are highly attractive and provide a large degree of improvisational freedom…… it is attractive to jazz musicians because of its challenging chord progressions.

 なるほど、単にメロディーが美しいだけではなく、曲の構造が演奏しやすい、即興しやすいものであることが重要なのだ。Yesterdaysのような曲はどのようなテンポでも演奏できるから、いろいろな演奏者(シンガー)が自分のノリで表現でき、それだけに名演も多いのだ。

 シンガーの場合だと、当然ながら歌詞も重要だ。My Funny Valentine(6位)をフランク・シナトラの歌で聴いた時、散々けなしておいてそのままでいてくれとはまるでヤクザのようなセリフで、曲はいいが、歌詞はひどいと思った。

Frank Sinatra My Funny Valentine

 しかし、この歌にはヴァースがあり、それは、

Behold the way our fine feathered friend,
His virtue doth parade
Thou knowest not, my dim-witted friend
The picture thou hast made 
Thy vacant brow, and thy tousled hair
Conceal thy good intent
Thou noble upright truthful sincere,
And slightly dopey gent

 ヴァースとはこのようなものかと思うほど、気取った歌詞だが、ちょっと大げさに振舞っているようにも感じる。内容は、ちょっとおバカだが気がいい男性についてのもので、これはもともと女性から男性に向けた歌なのだ。なにしろヴァレンタインディだから。このヴァースがあれば本編の歌詞は納得できる。男は顔ではないのである。

My funny valentine
Sweet comic valentine
You make me smile with my heart
Your looks are laughable, unphotographable
Yet you’re my favorite work of art

Is your figure less than Greek?
Is your mouth a little weak?
And when you open it to speak, are you smart?

But don’t change a hair for me
Not if you care for me
Stay, funny valentine, stay
Little valentine, stay
Stay, little valentine, stay
Each day is valentine’s day

 この曲の演奏と言えば、ボーカルなら、フランク・シナトラ、チェット・ベーカーあたりか。歌詞から言えば、この曲は一途に歌い上げるものではなく、ユーモアを感じさせるさらっとした歌い方が望ましいのだ。この点、男性歌手は心得ていて、シナトラがいいのも、軽みがあるからだ。

 女性歌手では、サラ・ヴォーンの録音があり、彼女にしては率直な歌いっぷりだが、感情表現がややオーバーで、ちょっと重い。やはり、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)の外連味がない、伸びやかな歌いっぷりに軍配が上がる。

Ella Fitzgerald  My Funny Valentine (ヴァースあり)

 器楽演奏では、プレスティージレーベルにおけるマイルズの演奏がまず頭に浮かぶ。1965年のライブ演奏も名高いが、ユニットとして一体感がありコルトレーンを含めて全メンバーの演奏に聴きどころがあるプレスティージ盤の方が一枚上だと感じる。この曲の演奏としては珍しくアップテンポだが、ビル・エヴァンスとジム・ホールのインタープレイは心地よい。スタン・ゲッツとJ.J.ジョンソンのライブ演奏も心に残るものだ。

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