チャーリー・パーカー (その1)

Charlie Parker The Savoy Recordings (Master Takes)

 チャーリー・パーカーについては一つの記憶がある。まだ、ジャズを聴き始めたころ、月末になると(つまり給料日です)めぼしいレコードをまとめて買い、それらを抱えて(レコードは4枚を超えるとかなり重い)昔は人通りが少なかったコリドー街の裏手のボウリング上手のおばさんがやっているバーに行き、ライナーノーツを眺めながら角瓶のハイボール(ホワイトだったかな)を飲むささやかな習慣があった。ある時、いいレコードがあったか、調子に乗って飲み過ぎてふらつきながら電車に乗って、なんとか家にたどり着き、自分の部屋に入ってすぐその日に買ったパーカーのレコードをターンテーブルに乗せ、針を落とした後で服を着たまま眠りに落ちそうになったが、聴こえてきた演奏で我に返り、ベッドの上で身を起こしたまま聴き入った。そのレコードがサヴォイ盤であることは間違いない。寝惚けた酔っ払いをほぼ素面に戻す力がある演奏なんて滅多にないが、それがWarming Up A Riffだったことも間違いない。あらためて聴いて確信した。冒頭の4曲はギター兼ボーカリストのタイニー・グライムス名義のコンボ演奏で、パーカーのプレイはいいのだが、酔っ払いを叩き起こすほどではない。すると突然パーカーが吹きまくるのだ。これには驚く。まさにバードだ。飛翔している。相当なスピードで高く低く飛びまわっている。この曲を録音した日はパーカーの楽器の調子がもう一つで、調整のための試し録音を行ったその音源が残っていたというわけだ。全盛期のチャーリー・パーカーであれば、不完全なテイク、音が良くないエアチェックでも商売になるのだが、Warming Up A Riffに関しては、ダイアルのFamous Alto Breakと同じく、音源を残して世の中に出した人間に感謝すべきだろう。レスター・ヤングのOh Lady Be Goodにも同じ感動を与えられたのだが、ここでのレスターは軽々と浮遊しながらフレーズを紡いでいき、それぞれのフレーズが無駄なくぴたっとおさまって一つの物語を完結させるのだが、パーカーはそれこそ自由自在で、次はどこにいくのだろうと思わせ、一言で言えば、別次元のスリルがある。

Warming Up A Riff (Savoy)

 チャーリー・パーカー全盛期の録音と言えば、ダイアル(Dial)とサヴォイ(Savoy)の2つのレーベルにおけるレコーディングに尽きる。ロス・ラッセルが1946年に創設したダイアル・レコードには、1946年2月から翌1947年2月にかけて録音されたチャーリー・パーカーの音源が残っており、以前は、ダイアル音源の権利を獲得したスポットライトというレーベルからCharlie Parker On Dialというタイトルで発売されていた。全部で6枚のシリーズだった。内容は、ダイアルレーベルで正式に市場に出たものを含めたほぼすべてのテイクを網羅したもので、不完全なものも相当あるが、パーカーがこのころ残した録音はすべて一聴の価値がある。ダイアルは、マイナーレーベルだったこともあり、音は良くなく、また、演奏時間も3分前後と短いのだが、聴きどころは多い。パーカー以外のプレイヤーは駆け出しのマイルズ・デイヴィスなど多彩だが、リズムセクションはトミー・ポッター(Ba)、マックス・ローチ(Dr)でほぼ固定されている。

 チャーリー・パーカーのダイアル盤に関しては、スポットライトレーベルのLPに加えて、Complete Dial Recordingsというダイアルレーベルで行われた全てのセッションをカバーするCD10枚組を手に入れた。コアはチャーリー・パーカーだが、ディジー・ガレスピー、デクスター・ゴードン名義のセッション(ウォーデル・グレイも共演)も含まれており、1940年代半ばのジャズの記録として価値がある。と言いながら、今回引っ張り出してみたら、10枚のCDのうち8枚はセロファンがかかったままで、聴いてない。チャーリー・パーカーについては他にもCDを持っていたので、そのままにしておいたのだろうが、贅沢なものです。

 しかし、チャーリー・パーカーを聴いて感動したのは、ほぼ同時に手に入れた大和明氏が編集した2枚組の1945年から48年に渡るサヴォイのセッションで、これはマスターテイクを中心に、Ko KoBillie’s BounceNow’s the TimeThriving On A RiffAh-Leu-Chaなどパーカーと言えばこの演奏と言われるものを含むが、ワンホーンでプレイするパーカーのブルース演奏、Parker’s Moodがいい。チャーリー・パーカーの伝記Bird Livesによれば、サヴォイレーベルは著作権料を払いたくないために、できるだけオリジナル曲で録音することを求め、さもなければ、一聴して原曲がわからないくらいに「変形させる」ことを要求した結果(冒頭のテーマ演奏の部分で「原曲がわかっちゃうじゃないか」と慌てたプロデューサーから邪魔が入る録音部分も残っている)、パーカーのアドリブが全面的に楽しめる録音となったわけだ。Embraceable YouOut Of NowhereHow Deep Is The Oceanなどのスタンダード曲を含むダイアル盤とこの点異なる。もちろん、ダイアル盤にもオリジナル曲があり、Donna LeeYardbird SuiteScrapple From The AppleKlact-Overseds-TeneRelaxin’ At Camarilloなど全盛期の演奏が聴ける。ダイアルと言えば、Lover Manも印象に残る。レコーディングの時間になってもパーカーが来ないので、自宅に行って、クスリでふらふらになっていたパーカーを連れてきて、スタジオではロス・ラッセルが背後から支えて無理やり録音させたと言う代物で、これだけ聞いたら、まともな演奏であるわけがないと思うが、冒頭のふらつきを除けば素晴らしいバラード演奏でブルースのようにも聴こえる。

Thriving On A Riff (Savoy)
Parker’s Mood (Savoy)
Out Of Nowhere (Dial)


 つまり、ダイアルとサヴォイの録音が揃えばチャーリー・パーカーの演奏とは何かが掴める。これに加えるとすれば、Jazz At Massey Hallさらには、好き嫌いがあるようだが、Charlie Parker With Stringsになるか。もちろん、ワンホーンのNow’s the time、ディジー・ガレスピーとのBird and Diz、それに、Swedish Schnapps、ロイヤル・ルーストのライブもあり、また、JATP(Jazz at the Philharmonic)の演奏ではパーカーの珍しい長尺のソロを聴くことができる。

(その2)に続く

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