2021年 私の10冊 その8

 Leon Festinger  When Prophecy Fails

Leon Festinger
When Prophecy Fails

 レオン・フェスティンガーは皆様ご存じの「認知不協和論」で有名な社会心理学者で、この本は、ホフスタッター先生が著書の中で陰謀論の根底にある心理を理解する手がかりになると推奨していたので、一読しました。フェスティンガーとその仲間たちは、実際に予言を教義の中心におく宗教グループに観察者を送り込んで、予言がはずれる前後の様子を記録し、予言がはずれたとき,このグループの布教活動がかえって活発化するという逆説的な現象を検証しています。記述は実証研究というよりドキュメンタリーと言ってよいほど入念なものです。宗教グループの中心はある日突然地球外の存在から啓示を受けたというオバサンで、このオバサンの役割はその存在からメッセージを受け取り地球人に伝播する、高次元の意識体と交信するチャネリングをおこなえる者いわゆるチャネラーです。このチャネラーを通して地球外生命体(サナンダと称する)は数々の予言を行うのですが、その予言は徐々に終末論的になり、ついに12月20日に終末が来ると予言します。地球外生命体を信じる人々はもちろんUFOによって救われるのです。しかし、12月20日になっても何が起こるわけでもなく、信者たちは落胆しますが、チャネラーはこう宣言します。「夜を明かして座っていた我々が大いなる光を放っていたので、神がこの世を破壊から救ってくれたのだ」と。この宣言に力を得た信者たちは前にもまして熱心に布教活動を行うというわけです。フェスティンガーはこうした現象を生み出すための条件に付いて詳細に分析しています。

 トランプ現象とまったく同じですな。トランプ信者たちの間にも数多くの「予言」が飛び交っていましたが、何一つ具体化したものはなく、胡散霧消するだろうと思っていたら、その結束は前より強まってしまいました。米国で、こうした名著が啓蒙的な働きをせず、埃をかぶっているのです。まことにもったいない話であります。

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