2021年 私の10冊 その4

④ 広田照幸 『陸軍将校の教育社会史』 (ちくま学芸文庫)

広田照幸 陸軍将校の教育社会史(上)

 この本の裏面に、「天皇制イデオロギーの「内面化」が、戦時体制を積極的に担う陸軍将校を生み出したというのは真実か。本書は、膨大な資料を緻密に分析することを通じて、これまで前提とされてきた言説を鮮やかに覆していく。戦前・戦中の陸軍将校たちは、「滅私奉公」に代表されるような従来のイメージとは異なり、むしろ世俗的な出世欲を持つ存在だった。」ということで、労作です。つまり、多くの陸軍将校たちは「キャリアー」として職業軍人の道を選んでいたしたたかな存在であるということです。私が最も感じ入ったことは、丸山眞男に代表される「教育を通じて天皇制イデオロギーが内面化された」との論が正しいのだろうかとの著者の疑問です。教育によって民衆が洗脳されたと断じることは、民衆=愚民と見做すことだと。また、戦前、戦時期の人々が取った行動は天皇制イデオロギーが意識の中核にあったからだということにも疑問を投げかけていますが、これは確かにおかしい。こうした歴史記述がそのまままかり通っていたとすれば大きな問題で、著者の指摘には納得しました。また、本来、教育の目的は多面的なもので、イデオロギー浸透のためだけのものではないという点についてもその通りだと思います。この本についてさらに言えば、上下二巻のうち上巻が面白く、二巻目はやや冗長ですが、我慢しても読む価値はあると思います。私は我慢せずにやめてしまうのが常なのですが。

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