2021年 私の10冊 その5

 『中国の歴史』 (講談社学術文庫)

講談社学術文庫 中国の歴史 第1巻

 単行本が文庫になったので入手したわけですが、本来は13巻で、清朝に関わるものと中華人民共和国の成立から現在に至るまでの2巻はわけあって未入手です。このシリーズは基本的には通史ですが、それぞれの巻にテーマがあるユニークなものとなっています。このシリーズの肝は、中国の歴史を中国内外の様々な民族の交流あるいは衝突の歴史(大きな中国の中の小さな中国の歴史)としてダイナミックに描いているところです。中華料理(純粋に中華料理というものはありませんが)なるものも実は様々な地域の伝統料理を取り入れ、ミックスされたものだと皆さんご存知ですが、中国の歴史も同様です。中国の歴史と言うと、都市農耕民と匈奴に代表される騎馬民族との際限ない戦いと思うかもしれませんが、実際には、周辺民族にはソグド人のように権力の中枢にまで入り込む人々もいて、民族間の交流はもっと複雑なものであった。また、中国の考古学の発展は著しく、掘れば掘るほどいろいろ出てくるのが中国で、最新の考古学の成果にも数多くの言及があります。私が特に関心があるのは、中国文化が世界に抜きんでいた宋、明の時代です。日本は、古代より中国と交流があり、日本の歴史は中国との関係を論じないと描けないはずですが、その交流は中国から日本の一方的なものでなく、日本も中国に影響を与えた部分もあります。

 この本はシリーズの単行本として刊行された時に中華人民共和国でも評価され、訳も出たとのことですが、今はどうでしょうか。例えば、民族交流の視点からウイグル人の歴史的活動なども描かれていますが、中華民族なるものを標榜する現政権には邪魔な記述でしょう。

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