2024年の読書(7)
服部英雄 『蒙古襲来と神風』
ところで、刀剣の世界では平安後期から鎌倉時代の刀が戦いの道具としてもベストだそうで、現在、国宝指定されている太刀のほとんどがこの時代のものだ。また、単騎の武士としてもこのころが最も強かったらしく、文永、弘安の役で攻めてきた蒙古軍も、短弓の蒙古軍の射程圏外から強力な矢を射て、近接戦闘では切れ味鋭い太刀を振るい、滅茶苦茶に暴れまわる鎌倉武士に手を焼き、陸上から船に引き上げたところ、大風が吹いたというわけだが、その「神風」は吹かなかったが現在の説だ。この頃の唯一の記録とされてきた『八幡愚童訓』が八幡神の霊験をアピールするために(恩賞目当てで)、鎌倉武士が蒙古軍に惨敗したが、八幡紳の霊験による神風で助かったと描いたフィクションで、まともな史料ではないことが明らかになっている(『蒙古襲来と神風』服部英雄)。「神風」が定説化してその後の日本人の思想に悪影響を与えたが、今でも実際にあったと信じている人がいるのは困ったことだ。定説を覆すのは本当に難しいのである。