2021年 私の10冊 その1

 年末にその年に読んだ本の中から感銘を受けた10冊を選び出し、小文を付して紹介するという会に数年前から参加しています。本稿はその会で紹介した、今年の私の10冊です。

 今年は、①から⑤が和書、⑥から⑧が洋書、⑨と⑩がコミックであります。小説も読まなかったわけではありませんが(カズオ・イシグロ、ハルキ・ムラカミなど)、私のオタクマインドには響かなかったのであげませんでした。

① 今泉みね 『名ごりの夢 蘭医桂川家に生れて』 (平凡社新書)

今泉みね 名ごりの夢

 以前、東洋文庫版を持っていたのですが、酔った勢いで誰かにあげてしまい、最近になって新書版が出ましたので、再読しました。徳川幕府奥医師、法眼で蘭学者桂川甫周の娘みね(奥医師の娘はお姫様です)が自身見聞きした幕末および明治初期の情景を語ったものをまとめたもので、特に江戸の蘭学の元締めとも言うべき甫周に惹かれて集まった多彩な人物(柳河春三、宇都宮三郎、成島柳北、福沢諭吉、箕作秋坪、石井謙道など)が描かれていますが、武士であって学問を志す人々の気品さえ感じさせる姿勢の良さが魅力的で、司馬遼太郎が世界でも稀な読書階級と称した江戸時代のサムライはこうだったのかと思わせます。こうした人々がグループとして存在したので、明治時代の急速な発展が可能になったわけですが、反面、彼らの武士としての姿勢は西洋化と大衆化の波の中に消え去ってしまった。江戸時代が懐かしいとは言いませんが、江戸時代末期のサムライは十分に評価されるべきでしょう。福沢諭吉もなかなかの漢で、甫周先生の前では娘みねが福沢の足袋に穴が開いているのを見つけて、こよりでそこをくすぐっても、姿勢を全く崩さなかったなどのエピソードもあり、「である」のおっさんとはだいぶ違うなと思いました。

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